
岩手県鶴岡市にある温海町森林組合様で製材加工部門を見学しました。
この日の午後に研修のご依頼をいただいたので、見学は可能かどうかをお尋ねして係の方からご快諾をいただきました。
森林組合は「おかえりモネ」でも前半の舞台になりましたが、林業は自分にとって一番ご縁がなく最も知りたい業種でした。
※この記事は見学から1年3カ月経った2023年3月20日に、残っていたメモと写真を見ながら当時を思い出して書きました。
※この日講師を務めた研修については以下をご覧ください。
➡ 森林組合様のコンプライアンス研修会でハラスメント防止研修の講師を務めました(山形県鶴岡市)
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新潟県との県境にある温海町(あつみまち)は森林が89%のまち
山形県鶴岡市の南端にある温海町(あつみまち)は、新潟県村上市と接する海沿いのまちです。
町内面積の89%が森林で昔から林業がさかんですが、人口減少が進み、後継者不在・高齢化・森林境界の不明化などで、時期に達しているのに伐採されない樹木の割合が増えてきており、伐採後の植林もあまり進んでいないそうです。
温海町森林組合はそういった課題に取り組みながら、林業を営む組合員さんの木を伐ったり、買い入れたり、加工する事業を行っています。

敷地は木の匂い、事務所には木工品、木製の足踏み消毒液スタンドも

駐車場に車を止めると、あたりは木のいい匂いがしました。
事務所に入ると木製のカウンター、そして入り口には地元の木材を使った様々な木工品が並んでいて、中にはコロナ禍に対応した木製の足踏み式消毒液スタンド(商品名「ステップシャワースタンド」)もありました。
この木製足踏み式消毒液スタンドは、地域の資源を活用したコロナ禍対策という一石二鳥が好評で、小学校や自治体などの公的機関に多く採用されたそうです。チラシのPDFはこちらです。(※リンク切れの場合はこちら)
製材加工部門を見学

事務所でご挨拶をしたあと、早速、敷地を見学させていただきました。ご案内してくださったのは同組合の五十嵐管理課長です。
温海町は車で1時間以内の地域でA材・B材・C材・D材(後述)のすべてが採れる森林資源が豊富な町ですが、今は地元の木材が地元の家の柱などに使われることはほとんどないそうです。
現在、家の新築はプレカット工法が主流なので、柱を組んで家を建てられる大工さんもすでに町内にはいないとのこと。
(※プレカット工法については過去に石巻の山大さんをご訪問していますので、そちらの見学記もぜひご覧ください)
※ちなみに「五十嵐」という名字は「いがらし(濁点あり)」と読む場合と「いからし(濁点なし)」と読む場合があるらしいのですが、NHKのバラティ番組「日本人のお名前」によればその境目がここから近い鼠ヶ関付近とのことです。
私は個人的に濁点なしの「いからし」さんには会ったことがないのですが、課長にそのお話をしたら「私はいからし(濁点なし)なんです」とのこと。ですが正しく呼ばれないことも多いそうで、「気にしていない」とのお話でした。
杉もケヤキも今は人気がないらしい
そして今回初めて知りましたが、杉は外見的にも人気がないそうです。理由は写真を見てのとおり「(場所によって)色のばらつきがある」からで、海外産の松などはカットしても色が均一に白いので好まれるらしいです。
また、ケヤキも和風の家には似合いますが、洋風の家が多い昨今では需要が限られるとか。木材のニーズも段々変わってきているんですね。

木材はABCDの4段階に分けられます

伐り出された木材は、品質(主に曲がりなどの形状)や用途によってABCDの4つに分けられます。ただし明確な基準はないので、それほど厳密ではなく感覚的な通称のようです。
A材…直材で建築用材、家具材など市場性が最も高い質材
B材…小曲がり材で土木用材など
C材…大曲がり材で集成材、合板用材、チップ材(製紙用・エネルギー用)など
D材…伐採・造材等で発生する端材でチップ材など利用価値が最も低い質材のことをいう。
こちらの原木はカットされて新潟県で集成材の原料に

そういった前述のご事情もあり、今回見学させていただいたこちらの原木はカットされて集成材の原料になるそうです。
集成材というのは複数の板を結合させた人工の木材で、つなぎ目がノコギリの刃のようにギザギザになっていることが多いので皆さんも見たことがあるかもしれません。
主な納品先は新潟県の事業者様で、五十嵐課長に「日本で3番目」と伺ったのですが、何が「日本で3番目」だったのかはあいにく忘れてしまいました。
私は宮城県人なので日常会話で「新潟」で出てくることはほとんどありませんが、温海町は県境の町なので、隣の新潟県とも産業的な交流が深いんだな、と思いました。
ここから製材機に投入

2mにカットされた丸太はここから製材機(製材システム)に投入されます。
石巻の山大さんを見学したときには、リンクバーカーという装置で杉の皮むきを行っていましたが、こちらでは皮をむかずにこのまま投入するのかしら?
あ、確かこのあとどこかで「耳摺り」(不要部のカット)という工程があったと思うのでそれと関係あるのかな。
いつも思うのですが、こういう素朴な疑問はなぜかその場では浮かばず、ブログを書くときになって気づくんですよね・・・
OHIのツインバンドソー製材機(ツイン帯鋸)

木材をカットする刃の部分です。自動的に送られてくる木材がこの場所を通過すると、左右2本の回転鋸が事前に設定された木取りに従って、縦に木材をカットしていきます。このように鋸が二つある製材機をツインバンドソー(ツイン帯鋸)と言うそうです。
メーカーはOHIと書かれていて大井製作所(現:オーアイ・イノベーション株式会社)の装置でした。
見学時は実際の作業をしていなかったので、どのようにカットされるのかあまり想像できませんでしたが、メーカーさんの動画でわかりやすいものがあったので下に掲載します(装置の型式は違うと思いますが)。

女性も活躍!集成材用にさらに細かくカット
前工程でカットされた木材をさらに細かくカットします。
女性の方が慣れた手際で重い木材を転がしてレーンに乗せていました。かっこいい!
乾燥した後出荷されます

この記事を書くに当たり調べていたら、集成材用にカットされた挽き板のことをラミナというようです。
五十嵐課長は私を気遣ってくれたのか、その言葉を説明の中では使いませんでしたが、ネットで見た記事によると以前のラミナは残り物の端材でつくられていたようです。
ですが、今は最初から「ラミナ用」として製材している工場も多いとのこと。温海町森林組合さんも後者になるのでしょうか。
ここで乾燥されたラミナは何かが「日本で第3位(聞き洩らして不明^^)」の新潟県の木材事業者さんに出荷されるそうです。
木屑はバイオマスに、おがくずは牛の寝床に

わかったような見出しにしてしまいましたが「木屑」と「おがくず」の違いがわかりません。私の手元のメモには「木屑はバイオマス」「おがくずは牛の寝床」と書いてあるだけです。
見学した時には掲載した写真がどちらなのかも確認してこなかったのですが、「おがくず」に関して自分のメモに書いてあるのは以下の殴り書き。
「皮だけでは使えない」
「燃やすとカロリーが下がる」
「燃やすと灰が出る」
「お金を払って引き取ってもらっている」
「木は捨てるところがない」というお話を以前聞いたことがありますが、事業者としては、販売する価値がないものは産廃として有料で処分するしかない、ということなんですよね。
あれから1年3カ月経って新たに思うこと

宮城十條林産様を取材しました
今年の1月18日、私は取材のお仕事で宮城十條林産という仙台の会社さん(仙台市青葉区)をご訪問し、亀山武弘社長に林業のお話をたくさん伺いました。そのときの記事が以下です。
ビジネスとSDGs(1)宮城十條林産様「〇〇×林業」で社会の課題を解決し循環するしくみをつくりたい
SDGsが叫ばれて数年経ちますが、亀山社長のお話から林業の最大の課題は「持続可能な林業」であることが伝わってきました。
いま人工林を所有している人たちは戦後の国の施策に乗り、木材価格が上がっていくことを前提に植林事業に投資した人たちだそうです。
ですが現在は木材価格がすっかり下がってしまい、木を伐って売っても当時見込んだ利益がまったく得られなくなってしまいました。
ということは「儲からない」だけでなく、伐ったあとにまた植林(再造林)する資金もないということです。
山も木も誰かの財産なので持ち主が「赤字になるから伐ったあとにはもう植えない」と判断すれば伐りっぱなしになるしかなく、全国にはそういった禿げ山がとても増えているそうです。
(再造林には木を売って得た利益の3倍の資金がかかるそうです。それじゃ誰もやるわけないですよね。※公的な援助はあるそうですが・・・)
皆伐跡地に植えた「あつみかぶ」で再造林の資金を

このブログを書くにあたり温海町森林組合様にいただいたパンフレットを読み直していたら、1年3カ月前にあっさり読み飛ばしてしまった記事が急に大きな意味合いを持って目に入ってきました。
それは森林組合さんが木を伐ったあとの伐採地を山焼きして温海町特産の「あつみかぶ」を植え、「焼畑あつみかぶ」という商品名で販売している記事でした。
そしてその利益を資金の一部に充てて再造林を進め、循環型の林業を目指しているという内容だったのです。

ああ、今なら絶対食いつく内容なのに、そのときはそれが持続可能な林業のための取り組みだということにも気が付かず、ただ「空いた土地を有効活用している」ぐらいにしかとらえていませんでした。
今思えばこれはとても大事なことです。もっともっとそこに気を配って、きちんとお尋ねすればよかったと思います。
「あつみかぶ」を見たら温海町の森林を思い出すことにします

見学と研修を終えた帰りに、五十嵐組合長からお土産にいただいた自家製の「あつみかぶ」の漬物です。
「あつみかぶ」は赤かぶなので甘酢漬けにすると自然にこういう色合いになるようです。いただいた漬物は酸味が苦手な私でも食べられる優しく美味しいお味でした。
そしてこれも今までまったく気が付かなかったのですが、「あつみかぶ」の甘酢漬けは山形県内の産直や道の駅、SA/PAでよく売られているんですね^^
関心がないと一切目に入らないというのはまさにその通りだと思います。
私が山形県のお仕事の時に道の駅等で見かける「あつみかぶ」が森林組合さんの「焼畑あつみかぶ」かどうかはわかりませんが、今度もしどこかで「焼畑あつみかぶ」を見かけたら、森林の再造林を願って必ず私も買って来ようと思いました。
ちなみに今日のお昼ご飯は、五十嵐課長に教わった鼠ヶ関の「朝日屋」さんに行きましたよ!